γリノレン酸に関する各種研究報告
γリノレン酸と皮膚作用
成人でのγリノレン酸のアトピー性皮膚炎に対する効果
題:アトピー性皮膚炎患者の治療におけるγリノレン酸の効果
アトピー性皮膚炎は、湿疹や発疹、かゆみを伴う慢性の炎症である。ボリジ油に含まれるγリノレン酸を使って60名のアトピー性皮膚炎の患者に対して12週間投与して、その効果を判定した。30名の患者は、274mgのγリノレン酸を1日2回服用した。(1日あたり548mg)そして残りの30名の患者には、プラセボが投与された。(ボリジ油として約2500mg)かゆみ、紅斑、水疱そしてただれは、γリノレン酸を服用した患者で、徐々に有意に改善を示した。最もすばらしい効果は、かゆみの減退であった。γリノレン酸を投与された73%の患者で、ヒスタミン剤やステロイド剤の服用量が減少し、50%の患者でステロイド外用剤の使用が減少した。研究者は、ボリジ油を服用することでγリノレン酸を補給することは、医薬品治療で一般的に起こる副作用を発生させずにアトピー性皮膚炎を治療するのに有効な手段であると結論づけた。
Andreassi M, Forleo P, Di Lorio A, Masci S, Abate G and Amerio P. 1997. Efficacy of Gamma Linolenic Acid in the treatment of patients with atopic dermatitis. Journal of International Medical Research. 25:286.
題:アトピー性皮膚炎でのボリジ油の効果と安全性、有用性
この日本の研究は、γリノレン酸がアトピー性皮膚炎の治療に効果があるかを28名の患者で調べられた。1日180mgのボリジ油を4、8,12,16週間患者に投与されアトピー性皮膚炎の症状が緩和した。8週間と12週間の治療でそれぞれ53%と63%の症状の緩和が見られた。服用期間がながくなるほど、効果が高まることが判った。症状が悪ければ悪いほど、改善率も高まった。はっきりと判定できる副作用は無かった。研究者は、ボリジ油を従来からの薬物治療と併用することでアトピー性皮膚炎の治療を助けることが出来ると結論づけた。
Yasumoto R, Fujita H, Yamamoto T, Tokura S and Takikawa M. 1997. The effectiveness, safety and usefulness of Borage Oil on atopic dermatitis. Acta Dermatologica. (Kyoto) 92(2):249.
題:月見草油によるアトピー性皮膚炎の治療:臨床試験とその作用原理
月見草油を使ったアトピー性皮膚炎に対する臨床試験と作用原理を考察しているこの研究では、研究者は、月見草油は、アトピーの患者に安全だが、もっと研究が必要と言っている。
Kerscher MJ and Korting HC. 1992. Treatment of atopic eczema with Evening Primrose Oil: rationale and clinical results. Clinical Investigator. 70:167.
題:アトピー性皮膚炎と必須脂肪酸とプロスタグランジンE代謝障害
22名の患者で行った臨床実験の結果、オメガ6不飽和脂肪酸とEタイプのプロスタグランジンは、アトピー性皮膚炎の治療に応用できることが判った。γリノレン酸を含む植物油を内服することでアトピー性皮膚炎に有効であることが複数の対照群を用いた2重盲検法による臨床試験で判明した。これらの臨床試験で利用した植物油は、ボリジ油で、γリノレン酸が高率に含まれている。1日当たりの推奨服用量は750mgである。
Melnik B and Plewig G. 1991. Atopic dermatitis and disturbances of Essential Fatty Acid and Prostaglandin E metabolism. Journal of the American Academy of Dermatology. 25:859.
題:重度と中程度のアトピー性皮膚炎の月見草油での治療
重度と中程度のアトピー性皮膚炎の患者を13の病院で月見草を使って治療した。対照群は、使わなかった。13名の皮膚科医が、179名の患者に毎日360mgのγリノレン酸(10%の人には、540mg)を月見草油として投与した。(約3600mgと5400mgの月見草油)治療期間は、3ヶ月から5年であった。大多数の患者(111名)は、全般的に改善した。多くの人が、他の治療を減らしたり、止めたりした。一般的な改善期間は、12週間であった。
Stewart JCM, Morse PF, Moss M, Horrobin DF, Burton JL, Douglas WS, Gould DJ, Grattan CEH, Hindson TC, Anderson J, Jansen CT, Kennedy CTC, Lindskov R, Strong AMM and Wright S. 1991. Treatment of severe and moderately severe atopic dermatitis with Evening Primrose Oil (Epogam): A multi?centre study. Journal of Nutritional Medicine. 2(1):9.
題:月見草油に含まれるγリノレン酸のアトピー性皮膚炎と糖尿病性神経障害に対する治療効果
γリノレン酸がアトピー性皮膚炎と糖尿病性神経障害に有効であると言う仮説の基に動物と人で月見草を投与する実験が行われた。
Horrobin DF. 1990. Therapeutic effects of Gamma Linolenic Acid (GLA) as Evening Primrose Oil in atopic eczema and diabetic neuropathy. In: Health Effects of Dietary Fatty Acids, G.J. Nelson, Ed., American Oil Chemists' Society, Champaign, Illinois.
子供のアトピー性皮膚炎
題:アトピー性皮膚炎の子供に対するボリジ油を使ったγリノレン酸の効果
ボリジ油を使って子供のアトピー性皮膚炎に対するγリノレン酸の効果を調べた。3才から17才までの24名の子供の患者で対照群をつかった2重盲検法の試験が行われた。各患者は、1日当たり360mgのγリノレン酸を投与された。対照群に対しては、同量のコーン油が投与された。(ボリジ油として約1650mg)10から14週間の治療期間後に、対照群と比較してなんら湿疹の改善は見られなかった。プラセボ薬を服用しているときに両グループとも改善を示した。研究者は、ボリジ油を服用しているときに湿疹の症状が改善したという徴候は見られなかったと報告している。別の研究では、γリノレン酸の投与量を増やすことで湿疹が改善する事を示したとも報告している。
Borrek S, Hildebrandt A and Forster J. 1997. Gamma Linolenic Acid-rich Borage seed oil capsules in children with atopic dermatitis. A placebo-controlled double-blind study. Klinische Padiatrie. 209(3):100.
題:アトピー性皮膚炎の乳児でのγリノレン酸の臨床効果と赤血球細胞の脂肪酸組成と細胞膜の微小粘度
対照群を使った2重盲検法の試験が、子供のアトピー性皮膚炎の患者48名に、1日0.25g/kgと0.5g/kgの2つの投与量の月見草油を8週間投与することで行われた。(γリノレン酸として25mgと50mg)対照群には、プラセボ薬としてオリーブオイルが投与された。高い投与量の月見草油を投与されたグループは、全体的に症状が有意に改善した。研究者は、この結果から、月見草油を臨床的に使用する場合、多めに投与すべきであると述べている。
Biagi PL, Bordoni A, Hrelia S, Celadon M, Ricci GP, Cannella V, Patrizi A, Specchia F and Masi M. 1994. The effect of Gamma Linolenic Acid on clinical status, red cell fatty acid composition and membrane microviscosity in infants with atopic dermatitis. Drugs Under Experimental and Clinical Research. 20:77.
題:乳児のアトピー性皮膚炎に対するγリノレン酸の効果と安全性
アトピー性皮膚炎の乳児(8ヶ月から26ヶ月)に1日3gの月見草オイルを28日間投与した。(γリノレン酸として300mg)
乳児達のかゆみの症状に付いては、有意に改善を示した。その結果、抗ヒスタミン剤の使用量が減少した。皮膚の発赤、剥離、擦り傷が徐々に改善した。
副作用は、見られなかった。研究者は、γリノレン酸の投与は、乳児や幼児のアトピー性皮膚炎に対する補助療法として安全で効果的な方法であると結論づけた。
Fiocchi A, Sala M, Signoroni P, Banderali G, Agostoni C and Riva E. 1994. The efficacy and safety of Gamma Linolenic Acid in the treatment of infantile atopic dermatitis. Journal of International Medical Research. 22:24.
題:必須脂肪酸投与によるアトピー性皮膚炎の患者に対する対照群を用いた臨床試験
対照群を使った2重盲検法の試験がアトピー性皮膚炎の大人と子供で行われた。月見草オイルが単独で1日6g又は、魚油1.3gと月見草オイル5.16gと一緒に投与された。(γリノレン酸として600mgと516mg)プラセボ薬は、大人に流動パラフィン、子供には、オリーブ油であった。月見草単独のグループも魚油と併用グループにもアトピー性皮膚炎の改善は見られなかったが、研究者は、試験グループで皮膚の症状が全体的に改善したと報告している。それは、この研究は、2つの要因から影響を受けていたからである。1つは、プラセボグループも試験グループもステロイドの外用薬を使うことが許されていた。その為、症状の改善を観察することが出来なかった。もう1つは、成人の月見草の摂取量は、平均の70%で、子供で平均の50%と、摂取量が少なかった点である。これらのことを考慮に入れなければならない。
Berth?Jones J and Graham?Brown RAC. 1993. Placebo?controlled trial of Essential Fatty Acid supplementation in atopic dermatitis. Lancet. 341:1557.
手の慢性皮膚炎
題:月見草による手の慢性皮膚炎治療
この研究は、手の慢性皮膚炎でのγリノレン酸の効果を判定するために対照群を用いた2重盲検法で39名の患者に対して24週間行われた。16週間患者の半分に対して1日量γリノレン酸600mgに相当する月見草油が投与された。残りの8週間は、観察だけが行われた。実験グループ、プラセボグループの両方に改善が見られたが、統計学的な有意差は見られなかった。研究者は、より長期の研究が必要であると強調している。
Whitaker DK, Cilliers J and de Beer C. 1996. Evening Primrose Oil (Epogam) in the treatment of chronic hand dermatitis: disappointing therapeutic results. Dermatology. 193(2):115.
月経前湿疹
題:成人のアトピー性皮膚炎と湿疹の月経前悪化に対するγリノレン酸の効果
月見草のアトピー性皮膚炎に対する効果見るために52名のアトピー性の患者で対照群を使った2重盲検法の試験が行われた。特に月経前に症状が悪化すると言う患者が選ばれた。患者は、月見草オイルが500mgはいったカプセルを1日12カプセル16週間服用した。(γリノレン酸として600mg)発赤と皮膚表面の障害の改善に十分な効果があった。月経前に症状が悪化する患者に特に効果があった。
Humphreys F, Symons JA, Brown HK, Duff GW, Hunter JAA. 1994. The effects of Gamma Linolenic Acid on adult atopic eczema and premenstrual exacerbation of eczema. European Journal of Dermatology. 4:598.
口腔粘膜の水疱
題:γリノレン酸を使った複数の口腔粘膜嚢胞の治療
この研究報告は、65才の婦人で発生した複数の口腔粘膜嚢胞(口腔粘膜の水疱)治療について述べられている。口腔内に粘膜嚢胞が1つできることは、よくある。しかし複数の粘膜嚢胞が出来るのは、希である。その治療には、外科手術が伴う。患者は、月見草油として10mgのγリノレン酸を12時間ごとに4週間与えられた。すべての障害は、完治し、粘膜は正常になった。研究者は、このような障害を外科手術で治療する前にγリノレン酸を投与することは、価値があると述べている。
McCaul JA and Lamey PJ. 1994. Multiple oral mucoceles treated with Gamma Linolenic Acid: report of a case. British Journal of Oral Maxillofacial Surgery. 32(6):392.
乾癬
題:γリノレン酸を豊富に含む植物油の投与量に応じた人多形核好中球でのロイコトリエンB4の生合成効果
乾癬は、多形核好中球によるアラキドン酸からロイコトルエンB4の産生に関連して起こる症状である。この研究は、γリノレン酸の投与により多形核好中球の脂肪酸組成とロイコトリエンB4の産生の変化を測定した。12名の健康な被試験者が、ボリジ油(1日当たりγリノレン酸480mg)、ブラックカラント油(1日当たりγ ン酸480mg)そしてオリーブ油を6週間服用した。オリーブ油と比較して、γリノレン酸を服用したグループは、多形核好中球内リン脂質中のジホモγリノレン酸の含量が35%増加した。γリノレン酸を1日1500mg服用したグループは、多形核好中球中のジホモγリノレン酸含量とホスファチジルコリンとホスファチジルエタノールアミンの量が130%と105%増加した。γリノレン酸を含むオイルを摂取することは、炎症を引き起こす前駆物質であるロイコトリエンB4発生を正常化可能性がある結論に達した。
(ロイコトリエン:アラキドン酸から5‐リポオキシゲナーゼ反応を介して生成される生理活性物質.分子内にペプチドを有するペプチドLT(LTC4,LTD4,LTE4,LTF4)と,ペプチドを有さないLT(LTA4,LTB4)に分けられる.ペプチドLTは遅発反応性物質(SRS-A)として知られ,気管平滑筋の強力な収縮作用,気道粘液分泌作用,血管透過性作用があり,アレルギー性ぜん息や炎症時のメディエーターとして働く.LTB4は強い好中球遊走活性と,白血球活性化作用のほかに,各種免疫細胞の活性増強を示す。)
Ziboh VA and Fletcher MP. 1992. Dose?response effects of dietary Gamma Linolenic Acid?enriched oils on human polymorphonuclear?neutrophil biosynthesis of Leukotriene B4. American Journal of Clinical Nutrition. 55:39.
γリノレン酸の外用
子供の湿疹
題:局所塗布によるアトピー性皮膚炎の治療
酵素処理したカメラ油、ボリジ油、ホホバ油、スクワレン、ビタミンEとヒノキチオールを含む水性の製剤を塗布した結果、子供のアトピー性皮膚炎によるかゆみ、荒れ肌、湿疹などの症状を取るのに効果があった。又、副作用は発生しなかった。
Okazaki Yoshio. 1995. Topical preparation for treatment of atopic dermatitis. JP 09077665 A2. September 13.
題:脂漏性湿疹乳児の経皮水分損失率と角質層の水分含有率
生後1ヶ月から7ヶ月の乳児の脂漏性湿疹にボリジ油を1日0.5ml塗布することで治療を行った。症状は、3-4週間で完治した。表皮の機能状態を示す指標である表皮からの水分損失率は、治療後正常に回復した。水分損失率の改善効果は、塗布した部位だけでなく他の部位でも改善した。その結果、研究者は、γリノレン酸が経皮吸収され、表皮のバリアー機能を正常化する作用があるとの結論に達した。
Tollesson A and Frithz A. 1993. Transepidermal water loss and water content in the stratum corneum in infantile seborrhoeic dermatitis, Acta Dermato-Venereologica. 73:18.
題:ボリジ油:乳児脂漏性湿疹の新しい有効な治療剤
48名の脂漏性湿疹の乳児にボリジ油を1日2回局所に塗布した。皮膚は、10-12日で正常化した。症状は、塗布を中止した後1週間以内で再発した。生後6-7ヶ月まで塗布した後、塗布を中止したときは、再発はしなかった。研究者は、乳児の脂漏性湿疹の治療にボリジ油は、有効な薬剤であると示唆している。
Tollesson A and Frithz A. 1993. Borage Oil, an effective new treatment for infantile seborrhoeic dermatitis. British Journal of Dermatology. 129:95.
ニキビ
題:5-α-レダクターゼの阻害剤であるγリノレン酸と他の脂肪酸を塗布したとき、ハムスターの脇腹器官での成長抑制
男性の機能は、アンドロゲンと呼ばれるステロイドホルモン(男性ホルモン)により調節されている。アンドロゲンは、ニキビ、脂漏症湿疹、禿、多毛症を含む複数の皮膚障害を引き起こす。アンドロゲン依存性の病気の治療は、5-αリダクターゼの量と活性を変えることを目的として行われる。この酵素は、テストステロンをジヒドロテストステロンに変換する。以前の研究では、γリノレン酸が5-αリダクターゼの活性を阻害することが判った。この研究では、γリノレン酸を皮膚に塗布したときに5-αリダクターゼを阻害することが判った。その効果は、塗布した場所に限定される。この研究は、γリノレン酸がアンドロゲン依存性の障害の治療に利用できることを示している。
Liang T and Liao S. 1997. Growth suppression of hamster flank organs by topical application of Gamma Linolenic Acid and other fatty acid inhibitors of 5-alpha-reductase. Journal of Investigative Dermatology. 109(2):152.
消炎効果
題:植物油:局所塗布と消炎効果(クロトン油試験)
この研究では、植物油を塗布することで、マウスの皮膚にクロトン油で引き起こした炎症の発生を阻害するかを検討した。植物油は、効果の高い順にボリジ油、ピーナッツ油、月見草油、オリーブ油、リンシード油の順であった。植物油を配合した軟膏が消炎剤として作用することを示した。軟膏には、ステロイド剤は配合していない。
Diezel W, Schulz E, Shanks M and Heise H. 1993. Plant oils: Topical application and anti?inflammatory effects (croton oil test). Dermatologische Monatsschrift 179:173.
化粧品での利用
題:新しいコンセプト対既存の方法
この論文は、化粧品業界の専門誌に掲載された記事であるが、新しい科学的根拠に基づいたスキンケアーの考えを紹介している。その内容は、脂質の塗布と皮膚での水分保持能力との関係である。著者は、γリノレン酸を塗布することで、バリヤーの強化により皮膚からの水分損失を防ぐことが出来ると指摘している。
Rieger M. 1991. Skin care: New concepts vs. established practices. Cosmetics & Toiletries. 106:55.
γリノレン酸の作用機序
題:人のケラチン生成細胞の増殖、細胞膜組成、脂肪酸代謝に与える多価不飽和脂肪酸の効果。
必須脂肪酸不足により引き起こされる皮膚障害がある。リノール酸とアラキドン酸が不足した場合、表皮の細胞異常増殖を引き起こす。研究者は、人ケラチン生成細胞の培養時に、多価不飽和脂肪酸を加えた場合のその細胞増殖、脂肪酸代謝と細胞壁組成の変化に付いて観測した。ケラチン生成細胞は、血清や脂肪酸が入っていない、低カルシウムで非常に少量の必須脂肪酸を含む培地で培養された。必須脂肪酸が不足している細胞は、加えられたリノール酸をジホモγリノレン酸とアラキドン酸に変換した。培地に必須脂肪酸を加えることでケラチン生成細胞の脂肪酸組成が正常化し、細胞膜の粘度の低下、細胞増殖率の低下、培養細胞の老化(新陳代謝)が増加した。
Marcelo CL and Dunham WR. 1998. The effect of Polyunsaturated Fatty Acids on the growth, plasma membrane composition, and fatty acid metabolism of cultured human keratinocytes. Proceedings of the Annual Meeting of the American Oil Chemists' Society. pp. 24-25.
題:健常者に月見草油を投与したときのγリノレン酸の薬物動態データ
以前の研究では、γリノレン酸の代謝不足がアトピー性皮膚炎の原因で大きな役割を占めていると報告している。しかし、γリノレン酸の薬物動態については、あまり知られていなかった。6名の健康な被試験者にγリノレン酸40mgを含む月見草油を投与した。
朝7時と夕方6時の2回に6カプセル月見草油が投与された。γリノレン酸の1日量は、480mgであった。γリノレン酸の吸収率は、夕方より朝の方が少ないことが判った。
ボリジ油を使って更に高い濃度のγリノレン酸の投与実験を行った。
Martens-Lobenhoffer J and Meyer FP. 1998. Pharmacokinetic data of Gamma Linolenic Acid in healthy volunteers after the administration of Evening Primrose Oil (Epogam). International Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics. 36(7):363.
題:表皮でのγリノレン酸の脂質変化:表皮の炎症と異常増殖過程での調節作用
γリノレン酸を経口摂取した場合にアトピー性皮膚炎や急性、慢性炎症の抑制に効果があることが報告されている。摂取されたγリノレン酸は、表皮内でジホモγリノレン酸(Dihomo-Gamma Linolenic Acid)に変換される。サイクルオキシゲナーゼ(cycloxygenase)により酸化され1シリーズのプロスタグランジン(PGE1)に、又は、15-リポキシゲナーゼ(15-lipoxygenase)により15-ハイドロ-エイコサトリエン酸(15-hydroxy-eicosatrienoic acid)に変換される。その結果、抗炎症効果や抗細胞増殖作用を持つと報告している。この試験結果から考察して、研究者は、γリノレン酸は、15-ハイドロ-エイコサトリエン酸に変換されることで炎症や細胞の異常増殖を減少させると結論づけている。
Ziboh VA. 1998. Lipoxygenation of Gamma Linolenic Acid by skin epidermis: Modulation of epidermal inflammatory/ hyperproliferative processes. Proceedings of the Annual Meeting of the American Oil Chemists' Society. p. 25.
題:アトピー性皮膚炎でのプロスタグランジンE1とE2のin vivoでの形成
以前の研究では、オメガ6脂肪酸からプロスタグランジンE1への変換が減少することが、アトピー性皮膚炎での免疫学的、生化学的変化の原因であると言う仮説が立てられた。この研究では、プロスタグランジンE1の代謝物である15-ケト-13、14−ジヒドロプロスタグランジン(E1 15-keto-13, 14-dihydro-PGE1)の血清中の濃度が測定された。その結果31名のアトピー性皮膚炎の患者と31名の健常人との間に濃度の違いはなかった。アトピー性皮膚炎の患者の体内でのプロスタグランジンE1の産生は、正常であると考えられる。
Leonhardt A, Krauss M, Gieler U, Schweer H, Happle R and Seyberth HW. 1997. In vivo formation of Prostaglandin E1 and Prostaglandin E2 in atopic dermatitis. British Journal of Dermatology. 136(3):337.
題:表皮でのγリノレン酸の生物学的栄養学的重要性:強力な生物学的調整剤の発生と代謝
ボリジ油を摂取することで得られたγリノレン酸は、体内で急速にジホモγリノレン酸に変換される。ジホモγリノレン酸は、強力な抗炎症作用や障害や感染から皮膚を保護する作用を持っているプロスタグランジンE1の前駆物質である。ジホモγリノレン酸は、抗炎症作用のある別のエイコサノイド(不飽和脂肪酸から生成した物質の総称)である15-OH-ジホモγリノレン酸にも変換する。ボリジ油(γリノレン酸として1日1.5g)をモルモットと人に投与した後、15-O0-ジホモγリノレン酸は、炎症を引き起こすロイコトルエンB4の生合成を阻害することが判った。ボリジ油を経口投与することで炎症を引き起こすエイコサノイドの産生を減少させ皮膚の健康に好結果をもたらすと結論づけた。
Ziboh VA. 1996. The biological/nutritional significance of Gamma Linolenic Acid in the epidermis: Metabolism & generation of potent biological modulators. In: Gamma Linolenic Acid: Metabolism and its roles in nutrition and medicine. Huang, Y?S and Mills, DE., Eds., AOCS Press, Champaign, Illinois. pp. 118?128.
題:アトピー性の気管支喘息を持つ子供の血清脂質中のオメガ6脂肪酸
デルタ6デサツラーゼ酵素の減少が、子供のアトピー性気管支喘息に関係しているかどうかの研究を行った。研究者は、17名の小児喘息患者と10名の同年齢の健常者の血液中の脂肪酸の量を測定した。アトピーの子供では、普通の子供に比べてリノール酸は、高濃度で、アラキドン酸は、低濃度であった。しかし、γリノレン酸とジホモγリノレン酸の濃度に違いはなかった。研究者は、デルタ6デサツラーゼの活性とアトピーとの間には、関連性が無いと結論づけた。
(デルタ6デサツラーゼは、リノール酸をγリノレン酸に転換する酵素で、γリノレン酸は、ジホモγリノレン酸を経てプロスタグランジンE1に変換される。プロスタグランジンE1は、炎症やアレルギー反応に関わりこれらを鎮める作用があるので、この研究者は、デルタ6デサツラーズと言う酵素の減少によりプロスタグランジンE1の量が少なくなっているのではないかと考えた)
Leichsenting M, Kochsiek U and Paul K. 1995. (n?6) fatty acids in plasma lipids of children with atopic bronchial asthma. Pediatric Allergy and Immunology. 6(4):209.
題:豚の皮膚での必須脂肪酸の局所塗布効果
豚の皮膚は、人の皮膚と構造的に、細胞の動態で、放射線に対する反応で類似している。放射線照射により引き起こされる皮膚障害に対するγリノレン酸の効果を評価するために、放射線照射後、大きな白い豚に必須脂肪酸を含む2つのオイルを3mlづつ毎日経口投与した。1つのオイルには、7%のγリノレン酸が含まれており、もう一つのオイルには含まれていない。16週間の投与期間中、表皮の厚み(約40%)と生きた細胞層(約1.5%)が連続的に増加することを観察した。この研究所で行われた以前の研究でもγリノレン酸を含むオイルを投与することで放射線により障害を受けた皮膚が急速に回復した。
Morris GM, Hopewell JW, Ross GA, Whitehouse E, Wilding D and Scott CA. 1995. Topical effects of Essential Fatty Acids on pig skin. Cell Proliferation. 28(2):73.
題:アトピー性皮膚炎の子供の血液中に含まれる多価不飽和脂肪酸組成とγリノレン酸摂取後の血清中のオメガ6及びオメガ3脂肪酸代謝物組成
この研究の2つの目的の1つは、アトピー性皮膚炎の子供の血液中に含まれる多価不飽和脂肪酸の含量と組成を調べることであった。51名のアトピー性皮膚炎の子供では、同年齢の健康な子供に比べて血液中のリノール酸、ジホモγリノレン酸、アラキドン酸の量が有意に少なかった。γリノレン酸の量は、少なかったが、有意ではなかった。オメガ3脂肪酸は、僅かに少なかった。2番目の目的は、γリノレン酸の効果を評価することである。子供のアトピー性皮膚炎の患者に1日180mgのγリノレン酸を8週間投与された。γリノレン酸、ジホモγリノレン酸、アラキドン酸を含むオメガ6脂肪酸の量は、投与期間中健常人の対照者に比べて上昇した。期間中に副作用は見られなかった。又、オメガ3脂肪酸の量に対してなんら影響を与えなかった。この試験結果は、以前の研究と同様γリノレン酸を摂取することがアトピー性皮膚炎の子供の脂質代謝に影響を与えて、アトピー性皮膚炎に有効であることを示した。
Shimasaki H. 1995. PUFA content and effect of dietary Gamma Linolenic Acid-rich oil on profiles of n?6, n?3 metabolites in plasma of children with atopic eczema. Journal of Clinical and Biochemical Nutrition. 19(3):183.
題:新生児の血清多価不飽和脂肪酸の分析:アトピー性の病気の発病予測
両親や兄弟の関係からアトピー性皮膚炎になる危険性がある新生児を予測する研究で、その後アトピー性皮膚炎になった子供のへその緒の血液中の多価不飽和脂肪酸量が、ならなかった子供に比べて低いことが判った。アトピー性皮膚炎になる危険性がある子供の1ヶ月と3ヶ月の血液中のアラキドン酸とジホモγリノレン酸の量は、すべての新生児のへその緒血液中の量より低かった。この違いは、後でアトピー性皮膚炎になった子供と調整乳で育てられた子供でより顕著であった。研究者は、アトピー性皮膚炎になる危険性を知る指標として、誕生時の多価不飽和脂肪酸量の測定は重要であると結論づけた。
Galli E, Picardo M, Chini L, Passi S, Moschese V, Terminali O, Paone F, Fraioli G and Rossi P. 1994. Analysis of Polyunsaturated Fatty Acids in newborn sera: a screening tool for atopic disease? British Journal of Dermatology. 130:752.
題:アトピー性皮膚炎と気管支喘息の患者の血清脂質中での脂肪酸組成
異なる年齢のアトピー性皮膚炎の患者と健常者で血清脂質中の脂肪酸組成が測定された。アトピー性皮膚炎の患者の血清中に含まれるリノール酸量とリン脂質の量は、同年代の健常者に比べて多かった。一方、オメガ6脂肪酸に対するオメガ3脂肪酸の割合は、少なかった。(オメガ3脂肪酸の量が少ない)ジホモγリノレン酸とアラキドン酸の量には、違いはなかった。これらの結果は、以前の研究結果と一致している。オメガ3油を多く取ることでアレルギー症状が改善することが出来ると考えられる。
Sakai K, Okuyama H, Shimazaki H, Katagiri M, Torii S, Matsushita T and Baba S. 1994. Fatty acid compositions of plasma lipids in atopic dermatitis/asthma patients. Arerugi. 43(1):37.
題:アトピー性皮膚炎の子供を持つ母親の母乳には、長い炭素鎖の多価不飽和脂肪酸の量が少ない
アトピー性皮膚炎の乳児を持つ23名の母親と健常な子供を持つ18名の母親の母乳に含まれる脂肪酸組成を分析した。アトピー性皮膚炎の子供の母親の母乳には、健常者の母親の母乳に比べてリノール酸の量が多く、リノール酸より長い炭素鎖を持つ脂肪酸(ジホモγリノレン酸やエイコサペンタエン酸など)が少なかった。研究者は、母乳中のγリノレン酸に量も次の研究で調べるべきであると言っている。
Businco L, Ioppi M, Morse NL, Nisini R and Wright S. 1993. Breast milk from mothers of children with newly developed atopic eczema has low levels of long chain Polyunsaturated Fatty Acids. Journal of Allergyand Clinical Immunology. 91:1134.
題:アトピー性皮膚炎の患者の血清、赤血球、単核白血球のリン脂質の多価不飽和脂肪酸
アトピー性皮膚炎の患者と健常者で血清、赤血球、単核白血球中のリン脂質に含まれる多価不飽和脂肪酸の量が測定された。血清中では、有意な違いはなかった。しかし、アトピー性皮膚炎の患者は、赤血球中ジホモγリノレン酸の量が少なく、単核白血球中のアラキドン酸に対するジホモγリノレン酸の割合とアラキドン酸に対するリノール酸の割合が、健常者に比べて少なかった。このことは、アトピー性皮膚炎の患者では、単核白血球中で脂肪酸の代謝異常が起こっていることが判った。このことからアトピー性皮膚炎の患者では、脂肪酸組成の変化から免疫異常が起こっていると考えられる。
Lindskov R. and Holmer G. 1992. Polyunsaturated Fatty Acids in plasma, red blood cells and mononuclear cell phospholipids of patients with atopic dermatitis. Allergy. 47:517.
題:γリノレン酸を多く含む油を摂取すると皮膚に含まれるジホモγリノレン酸の量を抑制する。ミクロゾームでのγリノレン酸からジホモγリノレン酸への変換を阻害することがin vivoで可能になる
この研究は、γリノレン酸からジホモγリノレン酸への変換に与える各種濃度の多価不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸の効果について調べた。研究者は、γリノレン酸の濃度が低いとき変換が促進され、濃度が高いと阻害されることを見つけた。このことからオメガ6油を多く含む植物油を摂取した後、血液中に遊離の多価の不飽和脂肪酸が多くあるとき、皮膚組織中のジホモγリノレン酸が減少することを説明できるかもしれない。
Navarette R, Tang W and Ziboh VA. 1992. Dietary intake of concentrated Gamma Linolenic Acid (GLA)?enriched oil suppresses cutaneous level of Dihomo Gamma Linolenic Acid (DGLA): possible in vivo inhibition of microsomal elongation of GLA to DGLA. Prostaglandins Leukotrienes and Essential Fatty Acids. 46:139.
題:魚油(オメガ3油)とボリジ油(オメガ6油)のエチルエステルを摂取することで局所の消炎作用を持つと考えられる代謝物が発生した。
3つのグループのモルモットを1%の紅花油と5%のボリジ油のエチルエステルを含んだ餌、1%の紅花油と5%の魚油(エイコサペンタエン酸を多く含む)のエチルエステルを含んだ餌で飼育した。対照群には、水素添加したココナッツ油を投与した。モルモットは、ボリジ油からγリノレン酸を魚油からエイコサペンタエン酸とドコサペンタエン酸を含む脂肪酸又はその代謝物を皮膚組織に取り込んだ。これらの脂肪酸の代謝物が増加すると共に、炎症を引き起こすロイコトリエンの発生を阻害した。ボリジ油で飼育したグループでは、皮膚組織で消炎物質を産生した。
Miller CC, Tang W, Ziboh VA and Fletcher MP. 1991. Dietary supplementation with ethyl esters concentrates of Fish Oil (n?3) and Borage Oil (n?6) Polyunsaturated Fatty Acid induces epidermal generation of local putative anti?inflammatory metabolites. Investigative Dermatology. 96:98.
題:アトピー性皮膚炎の患者に月見草油を投与;好中球と表皮での脂肪酸の効果
以前の研究から研究者は、アトピー性皮膚炎の患者の皮膚組織で異常なくらい多くのリン脂質が存在することに気づいていた。これらのリン脂質を構成する脂肪酸でのオメガ6脂肪酸の割合は、少なかった。この病気の程度とオメガ6脂肪酸の割合は、反比例していた。好中球と皮膚組織のリン脂質での脂肪酸の変化の程度を測定するため、15名のアトピー性皮膚炎の患者を3つのグループに分け日に200mg、400mg、600mgのγリノレン酸を月見草油で投与した。投与の結果、好中球と皮膚組織の1価の不飽和脂肪酸に対するオメガ6脂肪酸の割合が増加した。特にジホモγリノレン酸の量が特に増加した。研究者は、異常な脂質と脂肪酸の組成が、アトピー性皮膚炎の特徴で、この病気の治療法を示唆している可能性があると述べている。
Schafer L and Kragballe K. 1991. Supplementation with Evening Primrose Oil in atopic dermatitis: Effect on fatty acids in neutrophils and epidermis. Lipids. 26:557.
題:正常な脂肪酸組成であるのにアトピー性皮膚炎患者では、好中球のロイコトリエンB4の放出量が減少している
多形核好中球(Polymorphonuclear neutrophil:PMN)は、血液中に最も豊富に存在する白血球で、炎症部位に顕著に存在する。この研究では、15名のアトピー性皮膚炎の患者と15名の健常者で多形核好中球のリン脂質の組成とロイコトリエンB4の放出量の比較を行った。脂肪酸組成には、違いはなかった。しかし、アトピー性皮膚炎の患者からのロイコトリエンB4の放出量は、健常者の42%でしかなかった。アラキドン酸からロイコトリエンに変換し放出する多形核好中球の能力がアトピー性皮膚炎の患者では、弱くなっていることを示した。
(ロイコトリエンB4は、炎症を抑える良いロイコトリエンでエイコサペンタエン酸から作られる)
Schafer L, Kragballe K, Jepsen LV and Iversen L. 1991. Reduced neutrophil Leukotriene B4 release in atopic dermatitis patients despite normal fatty acid composition. Journal of Investigative Dermatololgy. 96:16.
題:オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸が豊富に含まれる油をモルモットに与えることで、リポキシゲナーゼにより作り出された物質の濃度にin vivoで影響する
モルモットにボリジ油、魚油、オリーブ油(コントロール)が餌に混ぜて投与された。ボリジ油と魚油を与えられたグループの表皮を分析した結果、γリノレン酸とエイコサペンタエン酸、リポキシゲナーゼにより作られた物質(良いロイコトリエン)の量が増加した。このことから、良いロイコトルエンとエイコサペンタエン酸、γリノレン酸の増加は、炎症に対して有益な効果を提供すると考えられる。
Miller CC, Ziboh VA, Wong T and Fletcher MP. 1990. Dietary supplementation with oils rich in (n?3) and (n?6) fatty acids influences in vivo levels of epidermal lipoxygenase products in guinea pigs. Journal of Nutrition. 120:36.
題:必須脂肪酸と多価不飽和脂肪酸は、皮膚の生理に重要である
多価不飽和脂肪酸の皮膚における役割について考察したこの論文では、想定できる脂肪酸の生合成経路を図示し、γン酸を摂取することで体内で消炎作用のある物質を作り出す原料を提供できると結論づけている。
Ziboh VA and Miller CC. 1990. Essential Fatty Acids and Polyunsaturated Fatty Acids significance in cutaneous biology. Annual Review of Nutrition. 10:433.
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脂肪と油の違い
必須脂肪酸と体
γリノレン酸含有植物油
γリノレン酸を化粧品に配合した時の効果